大阪地方裁判所 平成3年(わ)3712号 判決 1992年10月23日
本籍
熊本県上益城郡矢部町大字上寺二〇〇一番地
住居
大阪府箕面市箕面六丁目九番二三号
会社役員
仲摩新一
昭和一七年三月二一日生
右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官立石英生出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役二年及び罰金六、五〇〇万円に処する。
右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判の確定した日から三年間右懲役刑を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、大阪市淀川区十三本町三丁目六番二七号において、協和住建の名称で不動産業を営んでいた者であるが、自己の所得税を免れようと考え、
第一 昭和六二年分の総所得金額が九六六六万六二四三円であった(別紙総所得金額計算書(一)及び修正貸借対照表(一)参照)のにかかわらず、売上の一部を除外し、架空の支払手数料を計上するなどの方法により、所得を秘匿したうえ、昭和六三年三月一二日、大阪府池田市城南二丁目一番八号所在の所轄豊能税務署において、同税務署長に対し、昭和六二年分の総所得金額が三三五万二三一一円で、これに対する所得税額が一五万四三〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額四九九一万五七〇〇円と右申告税額との差額四九七六万一四〇〇円(別紙税額計算書参照)を免れ、
第二 昭和六三年分の総所得金額が一億四六六四万三八五八円であった(別紙総所得金額計算書(二)及び修正貸借対照表(二)参照)のにかかわらず、前同様の方法により、所得を秘匿したうえ、平成元年三月一〇日、大阪市淀川区木川東二丁目三番一号所在の所轄東淀川税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額が四八一万七八七二円で、これに対する所得税額が三〇万二二〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書(但し、同申告書には誤って二九万四一〇〇円と記載)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額七八一〇万一二〇〇円と右申告税額との差額七七七九万九〇〇〇円(別紙税額計算書参照)を免れ、
第三 平成元年分の総所得金額が三億〇〇八三万四八六二円であった(別紙総所得金額計算書(三)及び修正貸借対照表(三)参照)のにかかわらず、前同様の方法により、所得を秘匿したうえ、平成二年三月一三日、前記東淀川税務署において、同税務署長に対し、平成元年分の総所得金額が六八四万三四四三円で、これに対する所得税額が六〇万三八〇〇円である旨の内容虚偽の所得税確定申告書を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって、不正の行為により、同年分の正規の所得税額一億四五四九万七九〇〇円と右申告税額との差額一億四四八九万四一〇〇円(別紙税額計算書参照)を免れた。
(証拠の標目)
注・証拠末尾の括弧書内の漢数字は、検察官請求番号を示している。
判示事実全部について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の
(1) 検察官に対する供述調書二通(六三、六四)
(2) 大蔵事務官に対する平成二年一〇月二五日付、同月二九日付、同年一一月一日付、同月一七日付、平成三年四月九日付(記録第一七-一二号)、同年四月一一日付(記録第一七-一四号)、同月一七日付、同月二五日付、同年五月一三日付、同月一七日付、同年六月一日付、同月一〇日付、同月三日付、同月一四日付、同月一五日付及び同月二五日付各質問てん末書(四〇、四一、四二、四三、四六、四八、五〇、五一、五五、五六、五七、五八、五九、六〇、六一、六二)
一 土井節子の検察官に対する供述調書(三八)
一 仲摩美恵子の検察官に対する供述調書(三九)
一 検察事務官作成の捜査報告書(一〇)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書一四通(記録第二二-三号、同第二二-一号、同第二二-二号、同第二二-六号、同第二二-八号、同第二二-一二号、同第二二-一三号、同第二二-一七条、同第二二-一八号、同第二二-二〇号、同第二二-二一号、同第二二-二四号、同第二二-二六号、同第二二-二七号)(一一、一二、一三、一四、一五、二一、二二、二六、二六、二七、三〇、三三、三五、三六)
判示第一及び第二の各事実について
一 被告人の大蔵事務官に対する平成三年四月九日付(記録第一七-一一号)質問てん末書(四五)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書二通(記録第二二-九号、同第二二-二五号)(一六、三四)
判示第一の事実について
一 大蔵事務官作成の証明書(昭和六三年三月一二日に申告した所得税申告書写についてのもの)(五)
判示第二及び第三の各事実について
一 被告人の大蔵事務官に対する平成三年五月二日付及び同月九日付各質問てん末書(五三、五四)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書五通(記録第二二-一一号、同第二三-七号、同第二三-八号、同第二二-一四号、第二二-二二号)(一八、一九、二〇、二三、三一)
判示第二の事実について
一 被告人の大蔵事務官に対する平成三年四月一五日付質問てん末書(四九)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第二二-一九号)(二八)
一 大蔵事務官作成の証明書(平成元年三月一〇日に申告した所得税申告書写についてのもの)(八)
一 大蔵事務官作成の調査報告書(記録第二三-一八号)(四)
判示第三の事実について
一 被告人の大蔵事務官に対する平成三年二月六日付、同年四月一一日付(記録第一七-一三号)及び同月二六日付各質問てん末書(四四、四七、五二)
一 大蔵事務官作成の査察官調査書四通(記録第二二-一〇号、同第二二-一五号、同第二二-一六号、同第二二-二三号、)(一七、二四、二五、三二)
一 大蔵事務官作成の証明書(平成二年三月一三日に申告した所得税申告書写についてのもの)(九)
(判示第三のほ脱額の認定について)
判示第三のほ脱額について、公訴事実では、総所得額が三億〇〇九六万〇〇八二円とされ、申告所得税額との差額一億四四九五万六六〇〇円を免れたとされているが、大蔵事務官作成の査察官調査書(記録第二二-二〇号、検察官請求番号二九)によれば、検察官の冒頭陳述の内訳明細書番号8の事業主貸の<7>の租税公課のうち、平成元年分の府市民税額の合計計算に二〇〇円少なく計算された誤りがある一方、兵庫県川辺郡猪名川町伏見台二-五-四二の仲摩美恵子名義で取得した不動産の固定資産税納付額の計算上、平成二年五月三〇日に納付された一二万五四二〇円を算入した誤りであることが明らかで、したがって、前記事業主貸の額が一二万五二二〇円多く計上されており、平成元年分の総所得金額も三億〇〇八三万四八六二円で、別紙税額計算書のとおり納付すべき所得税額も一億四五四九万七九〇〇円で、ほ脱額も一億四四八九万四一〇〇円となることが明らかである。
(法令の適用)
被告人の判示各所為は、いずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、いずれも所定の懲役と罰金刑とを併科し、かつ、各罪につき情状により同条二項を適用し、以上の各罪は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により罰金額を合算し、その刑期の範囲内で被告人を懲役二年及び罰金六五〇〇万円に処し、同法一八条により、右罰金を完納することができないときは、金二〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用して、この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。
(量刑の理由)
本件は、いわゆる地上げを事業としていた被告人において、三年度にわたり、合計二億七二四五万円余りの所得税を脱税した事案であり、脱税額としても高額であるうえ、そのほ脱率も約九九・六パーセントと極めて高率であって、納税義務に著しく違反する大胆な犯行というほかなく、被告人に対しては、懲役刑についても実刑をもってのぞむことも十分に考えられる。
しかし、他方、犯行の手口そのものは、主として地上げ手数料、それに関連した紹介料及び相談料の売上を除外し、一方では、支払手数料を架空ないし水増計上するなどのもので、特段巧妙、悪質とまではいいがたい面もあること、被告人において、本件ほ脱に関し、既に本税、附帯税及び地方税の大半を納付済みであること、被告人は、昭和六一年八月に経営していた会社倒産後、負債返済のため苦労し、その経験から収益を可能な限り留保しようとして本件犯行に至ったものであり、本件犯行の摘発後は、非を認めて事実関係を認める供述をし、反省も認められること、今後納税義務に違反することのないよう経理処理体制も一新したこと、さらに、家族状況等被告人のためにしん酌すべき事情もあるので、これら有利不利一切の事情を総合考慮し、被告人を主文掲記の懲役及び罰金刑に処したうえ、懲役刑についてはその刑の執行を猶予するのが相当と判断した。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 竹田隆)
総所得金額計算書(一)
<省略>
修正貸借対照表(一)
<省略>
総所得金額計算書(二)
<省略>
修正貸借対照表(二)
<省略>
総所得金額計算書(三)
<省略>
修正貸借対照表(三)
<省略>
税額計算書
<省略>